「宗教と社会」学会奨励賞の紹介

本学会では、2015年度より「宗教と社会」学会奨励賞を創設しました。授賞対象は機関誌に掲載された論文の内、機関誌が発行される年度の開始時点で原則として満40歳未満の方によって執筆された論文となります。

2019年度より、選考方法を改めました。学会奨励賞の選考は、以下の「選考規定」に示された 方法・基準に即して行われます。

選考規程

〈名称〉本賞の名称は、「宗教と社会」学会奨励賞とする。
〈理念・趣旨〉本賞は、本学会若手会員による宗教と社会をめぐる研究の展開を奨励する目的で設立されたものである。
〈対象〉本賞の選考対象は、学会誌『宗教と社会』掲載の論文とする。具体的には、毎年6月の学術大会時刊行の学会誌に掲載された論文の中から選ぶものとする。
〈対象者の条件〉選考対象者となるのは、設立趣旨に鑑みて、会員の執筆者のうち、機関紙が発行される当該年度開始時点で原則として満40歳未満の者とする。
〈選考委員会〉選考委員会を毎年6月に設置する。学会長と学会誌編集主任に加え、常任委員若干名から構成される。必要に応じ、常任委員以外に委員を委嘱することができる。学会長が選考委員長を務める。
〈選考方法〉毎年6月に刊行された学会誌に掲載された論文のうち、対象者の条件を満たす者による論文すべてについて、討議を行った上で受賞者を決定する。
〈選考基準〉本学会の理念ならびに本賞の設立趣旨に照らし合わせて、主に将来性の観点から総合的に判断する。その上で、選考委員による投票で決定する。同票の場合は、選考委員長が最終決定を行う。該当なしとする場合もある。
〈授賞理由〉選考委員長を中心に、授賞理由を作成する。
〈授賞式〉次年度の学術大会時の総会において授賞式を行い、賞状と副賞を授与する。副賞は、一件につき賞金3万円を限度とする。
〈その他〉授賞後に、対象論文に何らかの不正行為等(データ改竄・二重投稿等)が確認された場合には、遡って授賞を取り消し、賞状・副賞の返還を求める。
〈適用時期〉本規程は、2019年6月8日より有効とする。


受賞論文

2019年度「宗教と社会」学会奨励賞報告
「宗教と社会」学会奨励賞・選考委員会

2019年度からの新たな選考方法に基づき、以下、2つの論考が受賞対象とされた。

受賞論文
高田彩 「武州御嶽山の社会組織 ―女性の役割に注目して―」 (『宗教と社会』第25号)

授賞理由
 本稿は、東京都青梅市に位置する武州御嶽山(以下、御嶽山)における、御師の妻たちによる神社護持・宿坊経営の運営と御嶽山コミュニティ内の互助活動、ならびにそれらの活動を担う諸組織とその社会化機能について叙述したモノグラフである。
 聞き取り調査に基づくインフォーマントの語りを効果的に引用することで、婦人部、組合、付き合いという社会組織の特徴と活動がまとめられ、またこれら諸組織が指導者・聖職者と信者との間における多様な役割を担っている様子や、当事者の意識が浮かび上がってくる点が評価される。さらには、山岳宗教を取り巻く社会状況の変化が、そこに見えてくる。加えて、御師という業態における特殊性を含みながらも、宗教職能者家族における女性の役割といった、まだ十分に開拓されていない研究領域に挑んだ論考でもある。
 一方、今後の課題としては、まずより大きな見通しが求められるだろう。例えば、男性へのインタビューも充実させ、女性の社会組織に対する男性の評価を加え、より立体的な分析が望まれる。そこからさらには、男性中心の山内組織という語られ方を、乗り越えていく可能性も模索していただきたい。
 また分析の際に、より適切な概念が使用できるよう、工夫が求められる。例えば、「中間領域」という用語は大雑把に思えるし、公と私という区分のあてはめや、「労働組合のような性格」としての婦人部なども、現象を十分に表現できているとはいいがたい。これらに加え、エスノグラフィーが活かされるよう、文章を工夫し、論の流れをわかりやすく示すことにも努力していただきたい。
 以上、論文として評価しうる点と課題について講評してきたが、今後の研究の展開を奨励する目的にふさわしい論考と判断し、2019年度「宗教と社会」学会奨励賞を与える。



受賞論文
高橋秀慧 「「勤王僧」の顕彰と地域社会 ―福井県三国地域を事例として―」 (『宗教と社会』第25号)

授賞理由
 本稿は、福井県三国町の勤王僧・瀧谷寺道雅(1812~1865)という人物への、2度にわたる贈位請願運動(1928年、1933年)を事例に、寺院と地域社会に関わる人々が、地域振興・文化政策を視野に入れつつナショナリズムを下から支え構築していく過程を論じた、歴史実証的な論文である。
 論の運びもわかりやすく、事例の紹介や史料の読解も堅実になされた好論考である。また、贈位請願運動を、単に上からのナショナリズムへの迎合としてだけではなく、経済開発や観光寺院化といった、地域社会独自の思惑を踏まえ、文化政策との接点や下からのナショナリズムの形成として説明している点は、近代仏教研究に新たな視点を加えたといえよう。
 この贈位請願運動自体は失敗に終わっているのだが、歴史に埋もれがちな、こういった地方の出来事に光を当て、時代や社会を多角的にとらえようとする試みも興味深い。
 一方、今後の課題としては、三国地方の社会変動と贈位請願運動の結びつきについて、推測部分を補う資料を加えるなど、より説得的な論証が必要であろう。また、上からのナショナリズムに関して、当事者がそれをどう受け止め、捉え返し、下からのナショナリズムと接合・分離していくのかといった点を考察に加えられれば、さらに分析が深まるだろう。なお執筆者の意図したことと逆の意味になっている表現がいくつか見られるので、注意をされたい。
 以上の点から、今後の研究の展開を奨励する目的にふさわしい論考と判断し、2019年度「宗教と社会」学会奨励賞を与える。


    2016年度:該当なし
    2017年度:該当なし
    2018年度:該当なし